「芸術人類学」(中沢新一著)

「芸術人類学」
中沢 新一著
2006年3月22日発行
発行所 株式会社 みすず書房

10万年ほど前に新人と呼ばれる新しいタイプの人類が誕生したそうです。それまで人類とどこが決定的に異なるか、というと大脳内のニューロンの構造だそうです。「それまで接続できなかったニューロン同士の間に、新しい接続のネットワークがつくられ、それによって人類の心にそれまでなかった新しい領域が出現するようになったのですね」(本著より引用)。その結果として「それまでは別々の領域に分離されていた心の働きがひとつにつながって、そこに比喩や象徴を生み出すことのできる、異質なものの重なり合った『表現』をおこなえる心がつくられるようになりました。そしてそれといっしょに、芸術が発生したのです」(本著より引用)

上記の本著引用部分は芸術の起源に言及した重要な部分だと思います。恐らく間違いないことなのだろうと思います。進化が変化への対応だとすれば、10万年前に起きたニューロン構造の変化は、人類が生き延びるためには比喩や象徴によって高度なコミュニケーションが必要な状況に追いやられていたのかもれはせん。そして、その副産物として「芸術」が発生したのかもしれせまんし、あるいは、脳の中で起こっている現実と対応しない事態(妄想など)と現実との乖離を埋めるために「芸術」が必要だったのかもしれません。

私の当て推量はこれくらいにして、本著は人間という摩訶不思議な生き物の最深部から「芸術」の起源と本質を抉り出してくれました。長年私が抱いたいた疑問解決への燈台的役割を果たしてくれました。本著に対して感謝すべきだと思います。

<補足事項>
*1 本著をさらに深く理解するために「対称性人類学」(講談社刊)を併せて読んで頂くことをお勧め致します。
*2 本著の「十字架と鯨」を読んで、最近の捕鯨問題の真相が見えてきたように思います。

草壁丈二

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