この「世界の陰謀論を読み解く ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ」を購入した動機は、
「日本にも陰謀論は人口に膾炙していて、まことしやかに陰謀論を語る人々が存在しているのは何故か」
という素朴な疑問があり、ひょっとしたら、この本が、疑問を解いてくれるかもしれない、と期待したからでした。やや興味本位であった、という点は否めませんが・・・・
ユダヤ、フリーメーソン、イルミナティの中で、日本で最もメジャーな陰謀論は、ユダヤにまつわるものではないか、と勝手に思い込んでおりますが、日本人はユダヤ人に対して感謝(?)すべきことがあるように思っています。本著にも記述がありますが、日露戦争の際に、日本政府が起債した戦時公債をジェイコブ・シフというユダヤ人が半分程引き受けてくれたからです(これについては、内田樹氏著「私家版・ユダヤ文化論」-文春新書P15-16をご参照頂ければ、本著より詳しい記載があります)。
しかし、残念ながら、本著によると、1918年のシベリア出兵の際に、反革命派のロシア人経由で「シオン賢者の議定書」が日本に上陸したことが端緒となり、第2次世界大戦期に ユダヤ陰謀論が流布していったようです。徳富蘇峰、愛宕北山、四天王寺延孝などの著名人が、ユダヤ人陰謀論をつきづきに訴えたそうです。ところで、「シオン賢者の議定書」というのは、ユダヤ人の世界支配陰謀を主張したもので、フランス革命からロシア革命にかけての1世紀あまりの間にポピュラーになったそうです。
ここで、新たな疑問が湧き出てきます。第2次世界大戦が終ってから、70年近くも経っているにもかかわらず、未だにしぶとくユダヤ人陰謀論は生き残っていのか、ということです。
本著からの引用になりますが、
「この社会がどのように動いているのか、誰がどのような目的で動かしているのか。そもそも誰かが動かしているのか、勝手に動いているのかわからない。そのなかに存在する自分の生活や選択は、本当に自分の意志によるものなのか。本当は他の誰かの意志に踊らされているだけではないのか、知らないあいだに社会的に構築されコントロールされてるのではないか。
そのような不安に対し、陰謀論は世界の秩序構造を明確に説明し、世界やわれわれを操作する主体を一点に集約し可視化するとともに、陰謀論者たち自身の自律性の感覚や自己の独自な存在意義を回復し保証する機能を持つ、と考えることができる。陰謀論は世界がどうなっているのか、何が正しく何がまちがっているのか、誰がどのように世界を動かしているのかを明快に説明してくれる。簡単に言えば、陰謀論はわかりにくい現実をわかりやすい虚構に置き換え、世界を理解した気になれるのだ」
ということが根本的な要因だとすれば、生き残る理由の説明として首肯できます。
心理学については疎いですが、陰謀論を飲み込むことによって合理化が可能になるとすれば、やはり、陰謀論は今後も蔓延し続けるのだろう、と推測されます。
凡百の陰謀論を収集・分析して頂いた著者には、衷心よりお礼を申し上げたい。
草壁丈二