マーケティング関連記事等

定量調査講座 標本抽出か?クォータサンプリングか?

サンプル数が決まったら、対象(標本)を抽出するフェーズに入ります。インターネットリサーチではモニターの中から抽出することになりますが、そうでない場合は、住民基本台帳や選挙人名簿等から抽出します。インターネットリサーチの場合でも、住民基本台帳や選挙人名簿等の場合でも、インターバル(抽出間隔)を決めて標本抽出します。
まず、今回は住民基本台帳や選挙人名簿等から説明したいと思いますが、住民基本台帳や選挙人名簿等は個人情報の問題もあって、閲覧が厳しくなっており、公文書がなければ、閲覧が出来ない場合が多々あります。そういった場合、クォータ法を用いる方法しかありません。クォータ法は、クォータ=割当を決めて調査地点にいって現地で対象者を探し出すという方法ですが、調査員に負荷がかかるという欠点があります。

定量調査講座 サンプル数の決め方

ランダムサンプリング調査を始める場合、まず何をすべきか? 何をどこまで分析するかを明確にすることです。それによってサンプル数は決まってきます。例えば、性×年齢別まで分析したいとすれば、一つのカテゴリーに100s以上あれば、精度の高い分析が可能です。

男性 10代
20代
30代
40代
50代
60代
70代以上

女性 10代
20代
30代
40代
50代
60代
70代以上

以上のような14カテゴリー別まで分析が必要であるとすれば、1400sが目安になってきますが、回収率が60%と予想されれば、1400÷0.6≒2333sが必要になってきます。しかし予算等の現実問題で2333sのサンプル数を確保することが難しい場合が多々発生してきます。理想的には各カテゴリー100sですが、統計学的には1カテゴリー30sでもよいのではないか、と当社では考えております。根拠としては、30sを越えてくると、急激に数値が安定するからです(誤差が小さくなる)。従って、この事例では、30×14÷0.6=700sでも構わないでしょう。しかし、上述の事例は各カテゴリーの回収率が均等なものとして計算してありますが、男女とも若い年代は回収率が低く、年代によってばらつきがあります。対処法としては、国、地方自治体等の世論調査の回収率を参考にすれば、よいのではないでしょうか。

定量調査講座 ランダムサンプリング(無作為)調査の基礎手順1ーインターネットリサーチの違い

定量調査のランダムサンプリング調査は、住民台帳、選挙人名簿等からアットランダムに対象者を抽出して、実施する最も精度の高い調査方法です。近年、インターネットでモニターの中から対象者を抽出して実施するインターネットリサーチが低コストでスピーディに実施できるため、主流になりつつあるようてすが、インターネットリサーチのモニター自体に有為性があるため、ランダムサブリング理論が適応できません。従って、そのリサーチ結果に科学的根拠はない、と当社は考えています。インターネットリサーチが独自の補正法を用いているなら、話は別ですが。

しかし、インターネットリサーチの結果に科学的根拠ないにしても、ランダムサンプリング調査で実施した結果とほぼ同じ程度になるのではないかと推測されます(これについては検証が必要ですが、結構な時間とコストがかかります)。調査主体がそれでよしとするならば、それでよいのではないと考えます。要は、割り切りの問題だということです。

上述を簡単にいってしまえば、インターネットリサーチの多くは有為抽出である、ということです。

KDP(キンドル・ダイレクト・パブリッシング)でペーパーバック出版にトライしてみました!!!!

KDPでは、ペーパーバック(ハードカバーも)も出版できます。で、電子書籍で出版した作品をペーパーバック(物理的に存在する本)で出版することにしました。

日本では、原稿・表紙はPDFファイルでしか利用できませんが、面付けというかサイズ合わせに少々手こずりましたが、どうにか出版に漕ぎ着けられました。

私がぐちゃぐちゃ説明するより以下のURLを参考にした方がよいのと思われますので、是非クリックしてみてください!!!

本の作成 : ペーパーバック原稿の書式設定 (Windows 用 Word) (amazon.co.jp)

ペーパーバックとハードカバーの書式設定の問題の修正 (amazon.co.jp)

KDP 表紙計算ツール (amazon.co.jp)

以上の3つのサイトを閲覧しますと、ほぼペーパーバック出版に辿り着けられると思います。因みに私の作品は、

です。何卒よろしくお願い申し上げます!!!!

消費動向調査で判明することとは?

1.消費動向調査とは

「消費動向調査」とは、内閣府が実施している、「今後の暮らし向きの見通しなどについての消費者の意識や各種サービス等への支出予定、主要耐久消費財等の保有状況を把握することにより景気動向判断の基礎資料を得ることを」*1目的としたサンプリングによる世帯調査です。つまり景気の動向を判断するための調査ですが、統計法によって指定された「指定統計」ではなく、「一般統計」なのです。

*1 「」内は、内閣府HPより引用

2. 調査される項目について

「調査される項目について」記述する前に調査の概要を把握しておく必要がありますが、調査対象は全国の全世帯約5,000万世帯です(N=約5,000)。その中から8,400世帯が無作為に抽出されます(n=8,400)。対象となる世帯は、2人以上の世帯、単身世帯ごとに市町村→調査単位区→世帯の3段で抽出されます。また都道府県別に抽出率が均等になるように国勢調査の都道府県別世帯数に基づいて標本数を割り振っています。調査対象となる確率を大雑把に計算すると、8,400/5,000万(0.000168)で、対象者になる確率は非常に低いといえます。

調査対象になった場合は、15ヵ月間継続して協力する必要があります。最初は、内閣府が調査実施を委託した民間事業者の調査員が世帯を訪問して調査協力を依頼して、協力の承諾を得られれば、調査票を配布・回収します(訪問留置法)。以降、調査票が郵送され、郵送で回収されます(訪問留置法から郵送法にシフト)。

以上が大まかな調査の流れとなりますが、調査項目は、以下のように分類されます。

(1)消費者の意識(今後の暮らし向きの見通し)   ←毎月の設問です

(2)物価の見通し   ←毎月の設問です

(3)自己啓発、趣味、レジャー、サービスなどの支出予定   ←6、9、12月及び3月の設問です

(4)主要耐久消費財等の保有・買替え状況  ←3月のみ設問です

(5)世帯の状況 ←毎月の設問です

注)平成25年時点で「旅行実績・予定」という調査項目は廃止となりました

  • 消費者の意識(今後の暮らし向きの見通し) については、「今後半年間」の暮らし向きや世帯収入、雇用環境、耐久消費財の買い時、株式・土地の価値の見通しを対象世帯に回答してもらいます。
  • 物価の見通しについては、1問のみで、今後1年後に世帯で日ごろ購入する品物が「下がっているか」「変わらないか」、「上がるか」を回答してもらいます。
  •  自己啓発、趣味、レジャー、サービスなどの支出予定については、自己啓発、スポーツ活動、文化的催しの鑑賞、娯楽施設等の利用、外食、家事代行サービスについての金銭支出を増やす予定か、減らす予定か、を回答してもらいます。
  • 主要耐久消費財等の保有・買替え状況については、対象世帯で保有している乗用車、ルームクーラー、パソコンなどの耐久消費財の保有状況を回答してもらい、耐久消費財の買替えがあったものについては、その理由と買替え前に使用していたものの使用年数を回答してもらいます。
  • 世帯の状況については、世帯人員、世帯就業者数、世帯全体の年収、住宅の種類や広さ、ローンの有無などの世帯の基本的な属性を回答してもらいます。つまり分析の軸となる設問群です。

3. 実際に調査が行われる際の流れ

「2. 調査される項目について」で少し触れていますが、調査全体のフローは、

・標本設計

    ↓

・標本設計に基づいた標本抽出(調査対象世帯の抽出)

    ↓

・対象世帯への調査員訪問(調査協力依頼)

    ↓

・対象世帯の調査票記入

    ↓

・調査員による調査票回収

(調査員による回収は1回目のみで、以降15回目まで調査票は郵送送付・郵送回収に切り替わります)

    ↓

・対象世帯は毎月10日前後に郵送されてきた調査票に記入してから返送

  *調査票に記入する内容は毎月15日現在のことを基準としています

    ↓

・毎月20日頃までに届いた調査票を集計

  *残りの13回は、この繰り返しということになります。

4. 消費動向調査の注意点~もし対象世帯に選ばれたら~

既述していますように消費動向調査の対象世帯になる確率は0.068%と非常に低い確率ですが、常に選ばれる可能性はあります。対象者として抽出された場合の注意点は、15ヵ月という長い期間の協力が必要となってくることです。これは、調査対象世帯を15のグループに分けて、1ヵ月ごとに1グループが入れ替わっていき、15ヵ月ですべての対象世帯が入れ替わるような標本設計に起因しています。 その他の注意点としては、この消費動向調査は、世帯調査であり、個人調査ではないということです。世帯の耐久消費財の保有・買替え状況は世帯の実態情報として受け取られますが、(1)消費者の意識(今後の暮らし向きの見通し)、(2)物価の見通し、(3)自己啓発、趣味、レジャー、サービスなどの支出予定については、基本属性が不明な世帯主以外が回答する場合が生じる、ということをあらかじめ認識しておくべきでしょう。

顧客視点のマーケティング戦略

1.顧客視点と顧客の声は違う
「マーケティング戦略」という言葉は、ビジネスの世界では頻繁に耳にする言葉で、「マーケティング戦略を立案し、実行に移し、その結果を検証する」ということは、企業の浮沈を左右する最重要課題の1つです。しかし、まず、「マーケティング」とは何か、ということを定義しなければなりません。ここでは、「マーケティングとは、顧客のニーズを知り、それらに対応する企業活動」ということに致します。マーケティングの定義は、時代、研究者、各種機関によっても変わりますので、最もシンプルな言葉で表現した方がよいと考えられます。従って、「マーケティング戦略」とは、マーケティングを進めるにあたっての具体的かつ実践的な手法ということになります。さらに平易にいえば、「顧客のことを知ったうえで、顧客に商品やサービスを買って頂いて、企業の利益を得るための手法」ということになります。

「顧客のことを知る」ために、企業は、購入者調査、ニーズ調査などの定量調査やグループインタビューなどの定性調査を実施し、「顧客の声に耳を傾けること」をマーケティング戦略立案のベースにしてきました。
しかし、その結果、顧客の声を反映し過ぎた商品・サービスの開発を行ってしまう傾向にありました。例えば、「ガラケー」と呼ばれる携帯電話を作ってしまうようなケースが往々にしてありました。家電製品全般においても同様のことが発生していました。何故こういった現象が発生するのかというと、顧客は最終的な商品のイメージを持たずに顕在ニーズをマーケティング調査で回答してしまい、また、商品・サービスを開発する側も顧客の顕在ニーズを取り入れて、機能などを追加していき、結局、使いづらい製品を作ってしまったからでした。つまり「顧客の声重視戦略」(顕在ニーズ吸収型戦略)が判断ミスを招いたといえるでしょう。しかし、商品・サービス開発側が顧客視点に立てば、このような事態にはならなかったと想定されます。

「顧客視点」とは、簡潔にいえば、「顧客の立場に立った商品・サービスの開発」のことですが、再び携帯電話の開発を例にとると、「携帯電話に付加する機能は、ニーズ調査で把握したが、顕在ニーズを反映した製品は使いづらい。では、どういう製品を作ればよいのか?」というストーリーになるということです。こういうストーリーに基づいて、アップル社は、顧客の顕在ニーズに応えつつ潜在ニーズをも把握して、OSで作動するスマートフォンを開発し、提案型マーケティング戦略を実践したといえます。

2.マーケティング4Cとは
マーケティングの世界では、商品・サービスの開発側(提供者)視点から顧客視点のマーケティングに移行しつつありますが、そういう時流に連動して、「マーケティング4C」という顧客視点のマーケティング課題解決の枠組みが生まれました。1990年にロバート・ラウターボーンが提唱したものですが、以下の通りです。

・Customer Value :顧客にとっての価値
・Cost :顧客にとっての経費
・Convenience :顧客にとっての利便性
・Communication :顧客とのコミュニケーション

この顧客視点の枠組みは、「価値」が重視されるようになった顧客意識の変化を如実に表しています。また、顧客と商品・サービスの開発側の乖離は生じにくくします。従来の商品・サービスの開発側視点だった「4P」とは異なります。「4P」とは以下の通りです。

・Product :売る製品
・Price :売る時の価格
・Place :売る時の流通チャネル
・Promotion :売る時の販促

「4C」と「4P」は、マーケティング戦略の大きな枠組みにおいては、ほぼ同じですが、視点が、「顧客視点」と「商品・サービスの開発側視点」というふうに180°異なるものです。

3.顧客視点がマーケティングでなぜ大切なのか
「1.顧客視点と顧客の声は違う」「2.マーケティング4Cとは」でも少し触れていますが、マーケティングリサーチにおける課題のいくつかを以下にまとめました。

(1) マーケティングリサーチで捉えたと考えていた顧客の回答と実際の購入行動は異なる場合があります。

事例:アンケートでは「赤い車を買いたい」と答えていたにもかかわらず、実際は、シルバーグレーの車を買ったというケースがあります。その理由は「実際に赤い車に乗ると、派手で恥ずかしいから」で、顧客は願望を回答する場合があるからです。

(2)顧客は、ニーズを反映した最終商品をイメージできません。

事例:ある住宅メーカーの幹部は「顧客のいうことを聞いて住宅をつくると、顧客もメーカー側もどちも納得がいかないゴテゴテした家になる」と語っています。顧客は、あれも欲しい、これも欲しい、という希望を答えて、家の完成イメージを描くことが出来ないのです。

(3)顧客は、アンケートなどで、実際にないものについては、ほとんど何も答えられません。

事例: 「どのような新しい雑誌を読みたいですか?」という質問をしても、顧客のほとんどは「わからない」と答えます。しかし、実際に今までになかった雑誌を制作して販売してみると、「このような雑誌が読みたかった」という反応になります。

(4)顧客は、選択肢が設定されたアンケートでは、顧客自身の潜在ニーズを言葉にすることが出来ません。

事例:実際にプリコード式インタビューを行うと、対象者が「これかなあ」とやや困惑気味に回答する場合があります。「選択肢に近いけれど、ちょっと違うな。うまくいえないなあ」という心理状態のように推測されます。フィールドワークに出て、実際に対象者にインタビューすると、しばしば体験することです。

(5)商品・サービスの開発側の視点に立てば、顧客との乖離が生じやすくなります。

事例:オフロード車として市場に投入した車が都心部の若年層に人気を博し、都心部でよく乗られていた、というケースがありました。開発者側が想定していたオフロード乗車シーンと違ったとわけですが、開発側の視点を払拭し切れていなかった、という要因もあったと推測されます。

以上のような事例に共通していえることは、顧客の購買行動・心理を十分に把握して切れていない、潜在ニーズを捉えていない、ということですが、顧客視点に立つことで、事例のようなケースはかなりの部分で解消できます。しかし、アンケートやグループインタビューによって顧客の潜在ニーズを捉えることには、限界があるということも認識しておくべきでしょう。

4.顧客視点の持ち方
顧客視点を持つことで、マーケティング戦略の成功率も高くなりますが、従来のマーケティングリサーチの手法にも限界があるため、「行動観察調査」という新たな手法を導入する企業が増え始めました。「行動観察調査」とは、商品が売られている、あるいは、サービスが提供されている現場において、顧客の行動を観察することによって潜在ニーズを読み取る、という手法ですが、マーケティングの最前線は現場である、という考えに基づいています。いい換えれば、徹底した顧客視点の現場主義だともいえます。
商品が売られている、あるいは、サービスが提供されている現場を企業のトップ自ら観察して、マーケティング上の問題点を発見して解決し、業績を回復した、という事例は多々あります。マーケティングリサーチャーにとっては、データでは読み取れなかった顧客の行動の背景にある事情、潜在ニーズなどが、現場での行動観察によって、明らかになる場合が多くあります。机上でマーケティングリサーチの結果を分析するだけではなく、現場で顧客の行動を観察することは顧客視点を持ち、かつ、維持することにもなるのです。現場は顧客に関する情報の宝庫なのです。また、企業トップの現場重視は、インナーブランディングにもつながります。

アンケート調査を効果的に活用するために確認しておくべきこと

1.アンケートとは
「アンケート」とは、そもそもフランス語で、「実査活動を伴う調査」という意味ですが、日本では、調査票を使った調査全般を「アンケート」と呼ぶようになり、それが浸透して、一般化しています。

2.アンケートのメリット・デメット
(1).調査票作成方法によるメリット・デメット
アンケートの調査票は、アイテム・カテゴリーから成り立っています。アイテムとは、質問項目のことで、カテゴリーとは、回答項目のことです。多くのアンケートは、事前に回答項目が作成されていますが、これはプリコード式と呼ばれています。一方、質問項目に対して、調査対象者に自由に答えてもらい、その回答を分類して、カテゴリー化することはアフターコード式と呼ばれています。
プリコード式のメリットとしては、性別、年齢、住居形態、居住年数、居住地域といったような実態を把握するためには有効です。データの入力処理が容易になるからです。しかし、対象者の意識といったような場合、あらかじめ用意された回答項目のいずれかに入ってしまう危険性が潜んでいます(これは「バイアス(ここでは偏りという意味で使用)」と呼ばれている現象ですが、「バイアス」については、調査主体名バイアス、回答項目の順序効果バイアス、回答への助成想起バイアス、調査員バイアスなど様々なバイアスがあります)。

一方、アフターコード式のメリットは、自由回答(フリーアンサー=F.A.、オープンアンサー=O.A.と呼ばれています)が基本となりますので、調査対象者が自由に回答した意識などが吸収できるということが挙げられます。しかし、対象者の回答を全部読んで、カテゴリーに分ける、という膨大な作業が発生するというデメットがあります。また、アンケート内容に興味がない調査対象者から回答を引き出すことはなかなか難しいのです。このような事態を支援するために「プロービング」(答えるが出るように追求して質問すること)という回答を引き出す調査テクニックがあるくらいなのです。

プリコード式とアフターコード式のメリット・デメットを指摘しましたが、アンケートを作成する場合には、まず、質問項目の性格を吟味して、プリコード式にするか、あるいは、アフターコード式にするか、を決める必要があります。

(2).サンプリングのメリット・デメット
調査票作成段階においても、様々なメリット・デメットがありますが、アンケートの基盤はサンプリングです。アンケートは、母集団から無作為に一部を選んだ対象者の回答から、母集団全体を知ろうとするもので、ほとんどのアンケートではサンプリング(無作為抽出。ごく1部で有意抽出があります)が行われています。国勢調査のような国民全体を調査する悉皆調査は非常に稀なのです。

当然、サンプリングは、全数を調査する必要がありませんので、莫大なコストがかからないというメリットがあります。しかし、サンプリング誤差が生じてしまいす。例えば、「はい」という回答した比率は10±5%の間にある確率が95%といったような誤差です。誤差はサンプル数が少なければ少ないほど大きくなります。これはデメットですが、サンプリングを行った場合、「常に誤差がある」ということを認識して分析しなければなりません。

(3).調査員によるアンケートのメリット・デメット
郵送調査の活用、インターネット調査の普及によって、「コストや時間がかかる」というデメットのある調査員による調査は減少傾向にあります。が、一方で、調査員による調査は、調査票の回収率が郵送法よりも高くなるというメリットがあります。また、近年、増加しているミステリーショッパー(覆面調査)は、調査員に頼らざるを得ません。しかし、調査員の質を均一にすることは非常に困難です。ミステリーショッパーにおいては、調査の客観性を保持するために工夫に工夫を重ねているのが現実です。また、「(1).調査票作成方法によるメリット・デメット」で少し触れましたが、プロービング技術が調査員によって違ったり、各調査員が持つ独特の癖の違いもあったりするため、均一化する教育が必要となってきます。また、調査員と対象者との相性によるバイアスも発生しますので、調査員と対象者がラポール(親和関係)を素早く築いていくテクニックも習得してもらわなければなりません。

3.アンケートの種類とその違いによるメリット・デメット
調査手法は、調査する対象によって最適の手法を選ぶ必要があります。例えば、「世帯の消費額や世帯年収を知りたい」を調査したいということであれば、インタビュー法より留置法が適している、というようなことです。
以下は、主に定量的データ(数値や量のデータ)で分析するデータ)を知りたい場合の表的な調査方法です。
・個別訪問によるアンケート(インタビュー法、留置法など)
・郵送法によるアンケート
・電話によるアンケート
・インターネットによるアンケート
・街頭調査(インターセプト法)
・CLT(セントラル・ロケーション・テストの略で、ホールテスト、会場テストともいいます。会場に調査対象者を集めてアンケートを実施する方法のことです)

以下は主に定性的(あるいは質的)データを収集するための代表的な手法です。
・グループインタビュー
・デブスインタビュー(深層面接法のことで、対象者の潜在意識を探ることを目的としています)
・ミステリーショッパー(いわゆる覆面調査のことです。訓練を受けた調査員が身分を隠して、実際に商品を買ったり、サービスを受けたりして、その際の店舗内の様子、従業員の態度など評価するというものです)
・行動観察法

以上が代表的な調査方法ですが、主に定量的データを調査する場合の特徴(メリット・デメット)を表にまとめてみました。

「主に定量的データ」を調査する場合の特徴(メリット・デメット)

調査の手法コスト調査に要する時間       調査精度    補 足 説 明
インタビュー法××調査精度を最優先させたい場合に非常に 有効で、その点は大きなメリットとなります。しかし、かなりのコスト・時間が必要になるというデメットがあります。
留置法××調査員によってアンケートに回答した対象者を目視確認できないというデメットがあります。調査結果がインタビュー法よりクリアな差が出ないというデメットもあります。
郵送法×留置法と同様にアンケートに回答した対象者を目視確認ができない、また、回収率が悪くなるというデメットがあります。
電話法長時間の調査に不向きだというデメットがあります。拒否率も高く、クォータを設定している場合、回答を得にくい年齢層が出現します。
インターネット法無作為抽出でサンプリングが行われていないケースの場合、「代表性」という点において、統計学的な裏付けがないというデメットがあります。しかし、補正技術が研究されて、その課題は徐々に解決されているようです。
街頭法調査結果に、代表性がある、とはいい切れないというデメットがあります。しかし、ほぼ実態に近い結果が得られていると推測されます。
CLT街頭調査と同様に、代表性がある、とはいい切れないというデメットがあります。しかし、ほぼ実態に近い結果が得られていると推測されます。
注:◎は非常によい ○は「よい」 △は「やや悪い」 ×は「悪い」 という意味です。

以上、アンケートの種類によって、特徴は異なってきます。まずは、「何を調査したいのか」という目的を明確にしたうえで、アンケートの種類(調査方法)を決めていかなければなりません。しかし、アンケートを実施する前に「セカンダリーデータを収集して、対象者に関する情報を得る」というステップが必要になってきます。セカンダリーデータとは、「他の目的のためにすでに収集されたデータのこと」を意味しますが、総務省統計局、国土交通省、厚生労働省、内閣府などの国や地方自治体が収集したデータを有効に活用し、その結果、「アンケートを実施しなければ、目的のデータが得られない」ということであれば、その際に、アンケート実施に踏み切るべきです。アンケート実施には、かなりのコストがかかるのです。
さらに最近「ビッグデータ」を活用する動きが活発化しているようですが、ビッグデータの活用でアンケートを実施する必要がなくなる領域も出現してくることでしょう。

5.アンケートの活用事例
アンケートは、数限りなくありますが、主に、国、地方自治体、企業が主なアンケートを実施する主体者です。
企業に焦点を当てると、主にB to C(Business to Consumer)企業において、消費者のニーズ、ウォンツ、満足度などを知るためにアンケートを実施しています。コンビニでは、レジで消費者の年齢・性別を購入品と紐付けて、データを入力し、販売戦略に役立てています。デパート、スーパー、量販店などでは、クレジットカードやポイントカードのデータを基に商圏を調べたり、コンビニと同様に販売戦略を練ってたりしています。しかし、このようなデータのみでは、消費者のニーズ、ウォンツ、満足度などいった定性的(あるいは質的)データを捉えることに困難があります。そこで、アンケートの出番となります。

(1).事例1…スーパー、量販店における消費者満足度調査
お買い物に来た消費者が何を買ったか、については、データが取れますが、品揃え、店舗内の清潔度、店員の接客態度などに対する消費者の満足度といった定性的(あるいは質的)なデータを捉えることは出来ませんので、アンケートへのニーズが出てきます。調査員を介して商品購入後の消費者に満足度などをインタビューすることは、有効な活用方法といえます。

(2).事例2…イベントなどの参加者の満足度測定及び今後の要望把握
コンサート、展示会、講演会、フォーラムなどへの参加者の満足度や今後の要望などをリアルテイムで把握することは、次回の開催する際の課題発見、当日中に修正すべき点発見に有効です。スマートフォンにアンケート画面を出して、リアルタイムで来場者に満足度・要望などを回答してもらうことは、非常に有効な活用方法です。

6.最後に
AIやIT技術を駆使して、人間の行動、表情等から感情を読み取る手法が確立しつつあります。例えば、買った物、お店等に対して好感を持ったのか持たなかったのか、測定できるようになったのです。アンケート調査も大きく変わっていくのだろうと推測されます。

大手企業も活用しているエリアマーケティング

1.エリアマーケティングとは
エリアマーケティングとは、特定の商圏・地域内の情報・データなどを収集して特性を把握したうえで、その商圏・地域に適合したマーケティングを実践することです。

2.マスマーケティングは捨てるべきか?
エリアマーケティングは、特定の商圏・地域を対象にしています。例えば、全国展開しているファストフードチェーン店では、新規に店舗を開く場合、重回帰分析などによって売上予測を立てています。重回帰分析の式に使用する説明変数は、既存店のデータをベースにして選定されています。既存店の商圏内の昼間人口、夜間人口、学生数など売上に関係する、と想定される説明変数を挙げられるだけ挙げ、その中から売上と相関関係が強いもの(単相関係数が高いもの)がすでにいくつか選び出されているのです。そして、次段階として新規出店を検討している想定商圏内のデータを、その重回帰分析の式に入れ込んで売上予測を行うのです。もちろん1つ1つの新規出店商圏のデータを人的作業によって収集するわけではなく、実務的には、GISに売上予測に必要なベースとなるデータはあらかじめ組み込まれていますので、パソコン画面の地図上にある新規出店予定地点をポイントし、クリックするだけで、売上予測が出るという仕組みになっているのです。デジタルデータがなかった時代に比べると、人的負荷が大幅に軽減されたのです。このGISを活用したエリアマーケティングは、ファストフードのみならず多店舗展開が必要なチェーン店などでも用いられています。

以上は、GISを活用したエリアマーケティングの1例に過ぎませんが、新聞広告・オリコミ広告などを出すエリアの決定、食品など地域による味付けの違い、衣料品など地域による気温差で購入されるものが違う場合、地域による所得差など、「エリアによる差異」がある限りエリアマーケティングは有効な手法となるのです。

一方、マスマーケティングにおいては、市場全体の特徴・傾向・ニーズ・ウォンツなどを把握する必要があります。例えば、あるファストファッションブランドがマスマーケティングにおいて、「国内市場においては、細いパンツがトレンドである」というニーズを把握し、細いパンツを提供しようという戦略を立てたとします。これはメーカー全体のマスマーケティングとなりますが、地域よって色の好みが異なる場合、「○○地域では派手目の色のものを多く陳列し、××地域では地味目の色のものを多く陳列する」という販売戦略は、エリアマーケティングということになります。木で譬えるなら、幹の部分がマスマーケティング、枝の部分がエリアマーケティングという関係なっているのです。
つまり、枝を支えているのは幹ですから、エリアマーケティングのベースとなる戦略は、マスマーケティングが確立していなければ、立てられないのです。「エリアマーケティングだけを実践すれば、よいではないか」という考え方は、特定の地域だけを対象としているローカル企業は別として、全国あるいは海外も市場としている大企業においては成立しないのです。別のいい方をすれば、大企業においては、マスマーケティングを地域ごとにカスタマイズしていくことが「エリアマーケティング」ということになります。つまり、戦略(ストラテジーstrategy)と戦術(タクティクスtactics)の関係にあるといえます。ということであれば、全国展開、海外展開しているような大企業においては、マスマーケティングもエリアマーケティングもマーケティングを推進するうえでの両輪となっている、といえます。

3.長くエリアマーケティングと付き合うには
地域内の市場状況は常に変化しています。住宅地が造成された、企業・工場・大病院・大型商業施設などが進出してきた、あるいは撤退した、学校(小・中・高・大学・専門学校など)が新設されたなど、地域内の人口・雇用者数・年齢構成・地域内消費額などに大きく影響するファクターは多々あります。また、新しい道路や高速道路が通るようになった、新しい鉄道が開通した、あるいは、従来あったバス路線・鉄道が廃線になったなど、公共交通網に変化が生じ、地域内の人・車の流れが変わることもあります。つまり、地域特性は常に変化しているのです。例えば、小都市においては、大型商業施設が進出してきただけで、その都市内の動線・交通量のみならず周辺の地元商店街の客足(売上)などに大きく影響します。工場・企業などの撤退も打撃となり、競合他社の進出も、既存の企業にとっては脅威となります。大都市にとっては小さな変化であっても、小都市にとっては大きな変化となるのです。

地域間によって、変化の大きさに差はあるものの、地域内の市場状況は常に変化していますので、エリアマーケティングを開始した当初に得た情報・データは古くなってしまい、アップデートしないまま同じたエリアマーケティングを続けていると、危険な状況に陥る可能性があります。「学校、企業、大病院が移転する」「競合他社が進出してくる」「鉄道が廃線になる」といった要因で市場状況の変化が想定されるにもかかわらず、情報・データがアップデートされなければ、当然といえます。例えば、国勢調査は5年ごとに実施されますが、その間に、新しい町が造成されたり、逆に住民がいなくなったりする町も出現することがありますので、そういう変化にも対応していかなければなりません。地方自治体が提供している町丁目別人口は毎月収集するといったことにも必要事項の1つとなってきます。

以上のようなことが発生することから、長くエリアマーケティングと付き合うには、ルーティンワークとして、マーケティング戦略に必要となる情報・データをあらかじめ選定しておいて、それらを定期的に収集して、更新していかなければならないでしょう。常にアップデートが必要なのです。ここでの情報とは、公式発表されていないものも含みますので、そういう情報を得るためにも、地域住民・地方自治体・地元業者などと緊密な関係を構築して、情報を得やすい状態にしておく必要もあります。また、将来の地域内の都市開発計画などの情報も収集して、地域内が、どのように変化していくのか、という予測も立てながら将来のエリアマーケティングに備える必要もあります。

またGISの導入のみならず、最近では、ビッグデータの解析技術・AI技術の進歩もあり、これらの技術もエリアマーケティングに導入して大いに活用すべきです。

4.エリア以外も対象となるエリアマーケティング
これまで、エリアマーケティングについて書いてきましたが、エリアマーケティングは、マーケットセグメンテーション( market segmentation)の発想に基づいています。市場全体ではなく、商品・サービスを提供する対象の特性に合わせて市場を細分化し、対象にアプローチしていく、という考え方です。エリアマーケティングの場合は、細分化の切り口が「エリア」ということで、地域特性に合わせて、マーケティングを実践するということです。

従って、高齢者をターゲットしたマーケティングも、「高齢者」を切り口にした市場細分化であり、基本的には、エリアマーケティングと発想は同じだといえます。「高齢者をターゲットにする」という以外にも、富裕層、子ども、子どもいる世帯、独身OL、独身男性、主婦などをターゲットするといったマーケティングも現に存在しています。市場を細分化して、商品・サービスを提供する対象にアプローチすることを、「エリア≒セグメンテーション」と考え、「エリアマーケティング」と呼んでよいのかもしれません。商品・サービスを提供される対象のニーズ・ウォンツなどは、成熟期の市場では必然的に多様化しますので、マーケットセグメンテーションの考え方は市場成熟期時代の趨勢といえます。

定量調査と定性調査を組み合わせる手法で得られるメリット

1.定量調査とは
定量調査(Quantitative Survey)とは、最終的な調査結果が数値として表され、かつ、その数値が統計学的に見て意味を持つ調査のことです。大別すると、仮説を検証するための仮説検証タイプと定量的なデータ(数値)を得るために行うタイプがありますが、「量的調査」と呼ぶ場合もあります。

2.定量調査でとらえきれない細部
定量調査は、多数の調査対象者に、代表性を保持するため全く同じアイテム・カテゴリーで質問します。多くの場合、ペーパーの調査票・PC上の画面利用によるプリコード式のカテゴリー提示型になりますが、順序効果を排する手法、純粋想起、助成想起、強制選択尺度などの調査票・調査画面を作成するうえで様々なテクニックがあります。

しかし、プリコード式においては、強制選択尺度のように微妙な差異を捉えられない場合があります。例えば、「はい」、「いいえ」、「どちらともいえない」という選択肢があるとした場合、強制選択尺度においては、強制的に「はい」あるいは「いいえ」が選択され、「どちらともいえない」は選択されませんが、実際のマーケティングリサーチにおいては、「どちらともいえない」と思っている消費者心理が重要になってくる場合が多々あります。


以上は強制選択尺度における事例ですが、定量調査における調査対象者には、満足度調査などの評価調査や意識調査では、プリコードされたカテゴリーから選択せざるを得ない、という状況があり、このことが実態との乖離を生む要因になる可能性があります。また、「日本人の場合、極端な意見を避けたがる傾向がある」「本音ではなく建前を回答しやすい」といわれていますが、このような実態との差異は、定性調査で、把握あるいは補う必要があります。

定量調査のウィークポイントを補完する定性調査には、グループインタビュー、デプスインタビュー、行動観察法などありますが、定性調査を実施する場合は、定量調査の調査結果を再解釈できるもの、また、定量調査では見落としてしまうような事実を発見できるような内容にすべきでしょう。例えば、購入プロセス調査などは、購入現場に足を運んで、初めて「どうして、そういう買い方をするのか」という原因を突き止められるケースがあります。購入現場を観察する、という行為も定性調査の1つなのです。
つまり、定量調査と定性調査は対立するものではなく、相互に補完し合う関係にあるのです。過去の具体例として、冷蔵庫の幅が挙げられます。定量調査では「冷蔵庫の幅に不満」の割合が徐々に増える傾向にありましたが、原因を特定することが出来ませんでした。しかし、グループインタビューに参加した主婦の方から「マンションの冷蔵庫を置く場所に、販売中の冷蔵庫に入らない」という意見が出て、やっと原因が特定できたのです。年々不満の割合が増えたのは、マンション居住者が増加していたからだったのです。これは、定量調査と定性調査がうまくかみ合った好例です。

3.定量調査の前の定性調査
定量調査を実施する場合、その調査テーマに関する知識・基礎資料・手がかりなどが全くない場合、

(1)グループインタビューやヒアリング調査などを行って、ある程度の知識を得たり、方向性を決めたりする
(2)プリテスト用の調査票を作成し、プリテストを実施する
(3)プリテストから得られた課題・問題点を基に調査設計や調査アイテム・カテゴリーを修正して、本調査に臨む

という段階を踏んでいきますが、実際は、予算・スケジュール等の関係や過去の調査実績が蓄積されているなどの要因で(1)(2)は省かれるケースがほとんどです。

しかし、定量調査を実施する前には極力定性調査を実施すべきでしょう。というのも、定量調査で得られた調査結果の分析・解釈に、定性調査の調査結果は非常に役に立つからです。

4.組み合わせることで得られる答え
「2.定量調査でとらえきれない細部」「3.定量調査の前の定性調査」で既述してように、定量調査と体調査は相互に補完し合う関係にあります。それぞれのウィークポイントを補完し合っているのです。定量調査は統計学的な裏付けのある代表性はありますが、代表性においては、プリコード式が多いため、細部が見逃されるケースがあります。
一方、定性調査では、仮説を立てたり、調査のベースとなる知識を得たり、微妙な消費者の本音や心理を発見するにうえでは有効な手段ですが、代表性がありません。つまり、どちらが優れているという問題ではなく、一長一短があるということなのです。つまり、定量調査と定性調査をうまく組み合わせることによって、ソリューションを可能にしたり、仮説を検証したり、消費者の実態・心理などを正確に把握したりできるということなのです。

現状、定量調査、定性調査のいずれかに特化したリサーチ機関も多いようですが、「うまく組み合わせる」ことを実現するためには、定量調査と定性調査の両方の知識・経験が必要です。しかし、個人ベースで両面のスペシャリストになることは容易なことではないので、非専門分野のスペシャリストの意見を傾聴し、考え方も尊重すべきでしょう。

対象の全数を調べる悉皆調査(しっかいちょうさ)のメリットとデメット

1.悉皆調査(しっかいちょうさ)とは
「悉皆調査」とは、「悉皆」が意味するように、「ことごとく皆」を調査する全数調査(complete enumeration)のことです。日本で代表的な悉皆調査には、普段日本に居住している人を対象とした国勢調査や日本国内の事業所を対象とした経済センサスなどがあります。

2.標本調査との違い
悉皆調査は、調査対象をすべて調査する全数調査ですが、一方、標本調査(sampling survey)は、調査対象の中から無作為(単純無作為抽出法、層化無作為抽出法など)に標本(サンプル)を抽出したものに対して調査を行い、その結果に基づいて、母集団の値を推定するものです。調査テーマにもよりますが、ほとんどの世論調査やマーケティングリサーチは標本調査で行われるといっても過言ではなく、悉皆調査を実施することは稀といってよいでしょう。

3.悉皆調査のメリットとデメット
悉皆調査は、対象をすべて調査する全数調査であるわけですから、無作為に標本を抽出する標本調査のように標本誤差が生じません。調査で得られた値は即母集団の値となり、標本誤差を考慮に入れておく必要はありません。この点は大きなメリットといえます。またNも大きいケースが多い、と想定されますので、複雑かつ多様な分析に耐え得るnを確保しやすい、といえるでしょう。

しかし、悉皆調査にデメットがないわけではありません。以下に悉皆調査の重要なデメットを列記致しました。

(1)莫大なコストがかかる
(2)調査終了までに時間がかかる
(3)調査は未だに労働集約的領域が多く、人手をかなり要する
(4)インターネット調査に完全移行する場合、課題が山積している

「(1)莫大なコストがかかる」については説明する必要もないかとは思いますが、国勢調査の場合、調査実施年には1,000億円弱の予算が組まれます。民間企業には到底捻出できる額ではありません。また市区町村主体で悉皆調査を実施するとすれば、コストは標本調査と比べものにならないくらい高くなります。

「(2)調査期間が長くなる」についても調査対象数が多くなるわけですから、調査員の配置など調査の準備に時間が必要となり、調査期間中のトラブル発生件数も多くなったり、回収された調査票のインスペクション・点検・アフターコード作業などに膨大な時間を要したりします。

「(3)調査は未だに労働集約的領域が多く、人手をかなり要する」については、「(2)調査期間が長くなる」でも触れましたが、調査員調査の場合、調査員に調査を依頼しますので、その分の人的リソースを必要とします。調査期間中には調査員の管理者を配置しなければなりません。調査票回収後は、インスペクションや調査票の検票、データ入力などの作業が発生します。例えば、ある100万人都市の消費者意識を知りたい、というテーマで調査に臨むとした場合、1,000サンプルで標本調査した場合、単純に考えれば、人手は1,000分の1となります。

「(4)インターネット調査に完全移行する場合、課題が山積している」については、インターネットで回答する、ということは能動的なアクションですが、調査員による配布回収・インタビューの場合は受動的アクションです。調査員が訪問してきて回答を依頼する訳ですから、回答への義務感が生じて、回答率が高くなります。しかし、インターネット調査の場合、そういった義務感が弱くなり、低回収率に繋がります。あまりにも低い低回収率であれば、悉皆調査の意味がなくなります。
もう1つ考えられる課題としては、高齢者世帯です。操作方法がわからない、といったケースが多いと想定されます。
そして、最大の課題は、どう周知するか、という点です。新聞、TVのマスメディア、国・自治体の広報誌、葉書等で周知を図ったとしても、恐らく積極的にURLにアクセスして回答する方は少数派だと想定されます。また事前にメールアドレスを調査するとしても、膨大な時間と労力が必要となります。

以上のようなデメットが悉皆調査にはありますが、このデメットが調査実施の大きな障害となっていたために標本調査法が研究・開発されたのです。別のいい方をすれば、標本調査には、標本誤差があるものの、コスト、時間、人的リソースの問題を超えるメリットがある、ということです。

4.日本を理解できる経済センサス
日本国内で最も認知度の高い悉皆調査は国勢調査であろう、と推測されますが、同じく総務省が実施している経済センサスも国勢調査と同様にマーケティング戦略を立案するうえで非常に重要な悉皆調査の1つです。

経済センサスは、「事業所及び企業の経済活動の状態を明らかにし、我が国における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報を整備することを目的としています」*1。
*1「」部分は、総務省統計局のHPより引用

引用文を要約すると、経済センサスは、日本の事業所から得た情報をベースして事業所の実態を浮き彫りにする、経済分野の悉皆調査ということができます(2015年11月30日に総務省が公表した「平成26年経済センサス‐基礎調査(確報)結果の公表」によれば、平成26年7月1日現在の我が国の民営事業所数は577万9千事業所で、膨大な数です)。このようにNが大きいので、特定地域の経済情勢も把握可能です。

約600万弱の事業所が対象となった経済センサスは、国勢調査と同様にマーケティングリサーチ業務における収集すべき重要セカンダリーデータである、ということはいうまでもありません。