大手企業も活用しているエリアマーケティング

1.エリアマーケティングとは
エリアマーケティングとは、特定の商圏・地域内の情報・データなどを収集して特性を把握したうえで、その商圏・地域に適合したマーケティングを実践することです。

2.マスマーケティングは捨てるべきか?
エリアマーケティングは、特定の商圏・地域を対象にしています。例えば、全国展開しているファストフードチェーン店では、新規に店舗を開く場合、重回帰分析などによって売上予測を立てています。重回帰分析の式に使用する説明変数は、既存店のデータをベースにして選定されています。既存店の商圏内の昼間人口、夜間人口、学生数など売上に関係する、と想定される説明変数を挙げられるだけ挙げ、その中から売上と相関関係が強いもの(単相関係数が高いもの)がすでにいくつか選び出されているのです。そして、次段階として新規出店を検討している想定商圏内のデータを、その重回帰分析の式に入れ込んで売上予測を行うのです。もちろん1つ1つの新規出店商圏のデータを人的作業によって収集するわけではなく、実務的には、GISに売上予測に必要なベースとなるデータはあらかじめ組み込まれていますので、パソコン画面の地図上にある新規出店予定地点をポイントし、クリックするだけで、売上予測が出るという仕組みになっているのです。デジタルデータがなかった時代に比べると、人的負荷が大幅に軽減されたのです。このGISを活用したエリアマーケティングは、ファストフードのみならず多店舗展開が必要なチェーン店などでも用いられています。

以上は、GISを活用したエリアマーケティングの1例に過ぎませんが、新聞広告・オリコミ広告などを出すエリアの決定、食品など地域による味付けの違い、衣料品など地域による気温差で購入されるものが違う場合、地域による所得差など、「エリアによる差異」がある限りエリアマーケティングは有効な手法となるのです。

一方、マスマーケティングにおいては、市場全体の特徴・傾向・ニーズ・ウォンツなどを把握する必要があります。例えば、あるファストファッションブランドがマスマーケティングにおいて、「国内市場においては、細いパンツがトレンドである」というニーズを把握し、細いパンツを提供しようという戦略を立てたとします。これはメーカー全体のマスマーケティングとなりますが、地域よって色の好みが異なる場合、「○○地域では派手目の色のものを多く陳列し、××地域では地味目の色のものを多く陳列する」という販売戦略は、エリアマーケティングということになります。木で譬えるなら、幹の部分がマスマーケティング、枝の部分がエリアマーケティングという関係なっているのです。
つまり、枝を支えているのは幹ですから、エリアマーケティングのベースとなる戦略は、マスマーケティングが確立していなければ、立てられないのです。「エリアマーケティングだけを実践すれば、よいではないか」という考え方は、特定の地域だけを対象としているローカル企業は別として、全国あるいは海外も市場としている大企業においては成立しないのです。別のいい方をすれば、大企業においては、マスマーケティングを地域ごとにカスタマイズしていくことが「エリアマーケティング」ということになります。つまり、戦略(ストラテジーstrategy)と戦術(タクティクスtactics)の関係にあるといえます。ということであれば、全国展開、海外展開しているような大企業においては、マスマーケティングもエリアマーケティングもマーケティングを推進するうえでの両輪となっている、といえます。

3.長くエリアマーケティングと付き合うには
地域内の市場状況は常に変化しています。住宅地が造成された、企業・工場・大病院・大型商業施設などが進出してきた、あるいは撤退した、学校(小・中・高・大学・専門学校など)が新設されたなど、地域内の人口・雇用者数・年齢構成・地域内消費額などに大きく影響するファクターは多々あります。また、新しい道路や高速道路が通るようになった、新しい鉄道が開通した、あるいは、従来あったバス路線・鉄道が廃線になったなど、公共交通網に変化が生じ、地域内の人・車の流れが変わることもあります。つまり、地域特性は常に変化しているのです。例えば、小都市においては、大型商業施設が進出してきただけで、その都市内の動線・交通量のみならず周辺の地元商店街の客足(売上)などに大きく影響します。工場・企業などの撤退も打撃となり、競合他社の進出も、既存の企業にとっては脅威となります。大都市にとっては小さな変化であっても、小都市にとっては大きな変化となるのです。

地域間によって、変化の大きさに差はあるものの、地域内の市場状況は常に変化していますので、エリアマーケティングを開始した当初に得た情報・データは古くなってしまい、アップデートしないまま同じたエリアマーケティングを続けていると、危険な状況に陥る可能性があります。「学校、企業、大病院が移転する」「競合他社が進出してくる」「鉄道が廃線になる」といった要因で市場状況の変化が想定されるにもかかわらず、情報・データがアップデートされなければ、当然といえます。例えば、国勢調査は5年ごとに実施されますが、その間に、新しい町が造成されたり、逆に住民がいなくなったりする町も出現することがありますので、そういう変化にも対応していかなければなりません。地方自治体が提供している町丁目別人口は毎月収集するといったことにも必要事項の1つとなってきます。

以上のようなことが発生することから、長くエリアマーケティングと付き合うには、ルーティンワークとして、マーケティング戦略に必要となる情報・データをあらかじめ選定しておいて、それらを定期的に収集して、更新していかなければならないでしょう。常にアップデートが必要なのです。ここでの情報とは、公式発表されていないものも含みますので、そういう情報を得るためにも、地域住民・地方自治体・地元業者などと緊密な関係を構築して、情報を得やすい状態にしておく必要もあります。また、将来の地域内の都市開発計画などの情報も収集して、地域内が、どのように変化していくのか、という予測も立てながら将来のエリアマーケティングに備える必要もあります。

またGISの導入のみならず、最近では、ビッグデータの解析技術・AI技術の進歩もあり、これらの技術もエリアマーケティングに導入して大いに活用すべきです。

4.エリア以外も対象となるエリアマーケティング
これまで、エリアマーケティングについて書いてきましたが、エリアマーケティングは、マーケットセグメンテーション( market segmentation)の発想に基づいています。市場全体ではなく、商品・サービスを提供する対象の特性に合わせて市場を細分化し、対象にアプローチしていく、という考え方です。エリアマーケティングの場合は、細分化の切り口が「エリア」ということで、地域特性に合わせて、マーケティングを実践するということです。

従って、高齢者をターゲットしたマーケティングも、「高齢者」を切り口にした市場細分化であり、基本的には、エリアマーケティングと発想は同じだといえます。「高齢者をターゲットにする」という以外にも、富裕層、子ども、子どもいる世帯、独身OL、独身男性、主婦などをターゲットするといったマーケティングも現に存在しています。市場を細分化して、商品・サービスを提供する対象にアプローチすることを、「エリア≒セグメンテーション」と考え、「エリアマーケティング」と呼んでよいのかもしれません。商品・サービスを提供される対象のニーズ・ウォンツなどは、成熟期の市場では必然的に多様化しますので、マーケットセグメンテーションの考え方は市場成熟期時代の趨勢といえます。

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