はじめに

はじめに

このホームページは、芥川賞作家故八木義徳を偲んで、水の輪倶楽部が 運営しています。水の輪倶楽部は、八木義徳の最後の弟子であるメンバーが結成した非営利団体です。ホームページを開設するにあたって、八木義徳と交流のあった作家の方々にコメントを寄せていただきました。

「白木の真実」佐伯一麦氏

白木の真実...これこそが私小説精神の髄だ、ということを、私は、八木義徳氏の小説から、また直に発せられた言葉から学んで来た。白木とは、むろん桂離宮のような日本建築に代表される美意識である。また素なるもの、生のものを尊ぶ日本人の心性を意味するのだろう。だが、八木さんの言う白木とはそれだけにはとどまらない。荒削りの剥き出しの木肌が見せる自然の猛々しさ、生命力も込められているように感じられる。

「私の灯台」 三浦哲郎氏

私は、八木さんの全集の一冊を机辺の目の届くところに置いている。手に取ってなかの数行を読むこともあるが、そうしなくても、そこに八木さんの厳しい精進の結晶がある。八木さんがそこに正坐してこちらを黙って見ておられる、そう思うだけでいい。ただそれだけで、眠気も迷いも醒め、私は鼓舞されて背筋が伸びる。八木さんの文学には学生時代から親しんできたが、八木さんは、私のような酔いどれ船には常に灯台のような存在であった。

感性と理性」 吉村昭氏 

私は、二十四歳の春から小説を書きはじめたが、八木先生は私が同人雑誌に発表した短篇を必ず読んで下さった。その批評は文学者らしい秀れた感性にみちたものであったが、同じに理性に裏打ちされた堅固なものでもあった。その批評に、文学とはなんであるのかを知り、文学者としての姿勢も見た。
先生は亡くなられるまで私を昭君と呼んでおられたが、私をそのように呼ぶ文学者はいない。先生は私の文学上の唯一の師であった。

(五十音順)