八木義徳の海図

突然、ある人間が何の脈絡もなく小説を書き出すということは非常に考えにくい。
一つの、あるいは、凡百の小説との邂逅を端緒として、その人間の中に眠っていた小説家としての魂が掘り起こされ、タイムラグはあるとしても、創作という大海への冒険に突き進んでいくのではないかと思う。そして小説家として航海を続けていくうえでは私淑する師、畏友、敬愛する芸術家など数多の灯台が必要なのではないかと思う。
 
それでは八木義徳はどのような小説に触発され、どのような灯台を拠所としたのだろう。そしてどのような航路を難破することなく決定していったのだろう。

水の輪倶楽部は、八木義徳の航跡を追ってみたいという願望を抱いた。さらに倣岸不遜にも八木義徳の航跡を基に日本文学のごく一部分の海図を描けはしないかと考えた。もとより我々の力では不可能な試みであることは充分に承知しているが、我々も無謀な航海を始める決心がついたところである。

第1回目は、八木義徳にとっては「開眼の師」である有島武郎氏を選んだ。ご一読賜ることを切に願う次第である。

水の輪倶楽部・部長 草野大二



第1回「或る女」-八木義徳の視点 草野大二

第2回 ドストエフスキー -八木義徳(1911生)の震撼 草野 大二

第3回 小林多喜二 -八木義徳(1911生)の上京物語 草野大二